mogu-mogu-007のブログ

Windowsはもう結構です!

Windowsに嫌気が差して、無料OSに切り替えようと、いろいろ調べて、結局Linix Mintを導入しようと決めました。GUIに慣れていたので、Linuxに悪戦苦闘した記録です。

読書でタイムスリップ

松本清張「紅い白描」昭和36年

「いや、いいんです。妹も途中で息抜きをしたくなったんでしょう。あなたは果物はお嫌いですか?」
「大好きです」
「実は、そこのフルーツパーラーで落ち合う約束にしているんです」
 二人は舗道を渡って反対側に出た。しばらく歩くと、階下が果物やきれいな陶器を売っている店の中に入った。二階がフルーツパーラーになっている。眩しい照明の下で、熱帯魚が小さい鱗を光らせていた。

井上靖 「紅花」 昭和39年

霧が晴れてみなければ判らないが、庭もかなり広そうだし、立木のたたずまいも閑寂である。それに朝霧の立てこめるのも、またいいと思う。
 縁側には硝子戸がはめられてある。雨戸もあるが、それは平生使っていないらしく、硝子戸に錠がかかっている。亜津子は錠を外して、硝子戸を一枚開けてみた。朝の空気は思っていたより冷たかった。タオルの寝衣では、すぐ風邪をひいてしまいそうである。
 亜津子は戸を閉めて、縁側の籐椅子に腰をおろした。

 これらは、どちらも昭和を代表する作家の小説の一部です。
 英語の小説は、語彙こそ変遷がありますが、日本語に比べれば時代による変化はあまり見られないようです。
 ところが、ここにあげたテキストは、令和の時代に読み返すと、すごく時代がかって見えます。
 この二作品は、あまり有名な作品ではありません。
「紅い白描」は、1960年代の女性誌に連載されたもの。
「紅花」は京都新聞ほか地方紙に連載されたものです。
作者としては、別に力を抜いたわけではないでしょうが、こういった個人全集に入らないような、風俗小説の方が、その時代の匂いを感じさせるものなのです。

 例えば、「紅い白描」では、今では死語といっていい言葉が用いられています。「フルーツパーラー」「果物」です。フルーツパーラーは、くだもの屋が二階スペースなどで開いていたカフェ。果物もどちらかといえば今はひらがな表記の方が主流です。それに、好みを聞くときも、フルーツという方が多いかもしれません。さらに、女性に対して、あまり親しくないとしても、「…あなたは果物はお嫌いですか?」などと敬語を使うことも、 現代では珍しいといえるでしょう。
 次いで「紅花」のこの場面は軽井沢の日本旅館での朝の描写です。言葉の選択にしても、「立木」「閑寂」「朝霧」「硝子戸」と続くと、懐かしの映画の場面のようです。
  硝子戸の錠は、ネジ式であるに違いありません。
 パジャマではなくて、寝衣(ねまき)です。どうやら温泉ではないらしく、浴衣でもありません。しかもミスマッチとしか感じられないのですが、生地がタオル地になっています。

 私は、BOOKOFFに行くと、110円の文庫本の棚で、有名作家なのに題名を聞いたことがない本を見つけると欲しくなります。
 日に焼けた頁の向こうに、タイムスリップできるような気がするのです。